囚われの令嬢と仮面の男

「ううん、そういうことじゃないのよ。ただ、あなたはクリスとはよく話しても、私とはあまり話してくれないじゃない?」

 実際、弟はクリスには砕けた話し方をするけれど、私には敬語を使い、その接し方にも少し距離を感じていた。

「それを言うなら、姉さんだって」

 ぽそりと呟いた弟に「え」と声がもれた。

「大人になってからは口数も少なくなったし、僕に対してそこまで話してくれませんでしたよ」

「……そう、かしら?」

「ええ。だから今日は、正直言うと驚いてます。態度はやたらとハッキリしているし、急に走り出したり椅子に飛び乗ったり。突拍子もない行動ばかり取るので」

 その言い草につい笑みがこぼれた。

「ふふっ、そうね。全然令嬢らしくないわよね。以前(まえ)までは立ち居振る舞いとか行儀作法についても、慎重に気を配っていたんだけどな……。これじゃあいつまでたってもクリスに追いつけないわ」

「クリス姉さん、ですか?」

「ええ。あの子はなにをやらせても完璧だから」

 自身を情けないと思いながらも笑みを浮かべると、アレックスが稀に見せる微笑で「ああ」と相槌を打った。