囚われの令嬢と仮面の男

「マリーンお嬢様、勝手に部屋を抜け出されては困ります。私どもは、旦那様からお嬢様の安全を任されているんです」

「さ、お早く戻りましょう。お嬢様の好きなデザインで縫ったお召し物と帽子が届いておりますから」

 さぁ、さぁ、と背を押され、その扉に近づくことを遠回しに禁じられた。

 私を遠ざけるということは、エイブラムはまだ生きている。あの扉の奥で、暗闇に閉じ込められながらまだ息をしているはずだ。そう確信した。

 お父様が屋敷に呼びつけた医者が帰ると、私はふたりの侍女に引き渡された。

「このまま時間など掛けていられるか。マリーンは私がなんとかするからな?」

「……ええ、お父様」

 エイブラムが何者かを知らないお父様は、私が心の病におかされているのだと信じて疑わなかった。お母様や姉弟(きょうだい)たちにもそう話していた。

 颯爽とした足取りで玄関(エントランス)ホールへ向かう大きな背中を見送り、胃のあたりがキリキリと痛くなる。

「さぁ、お嬢様。お部屋へお戻りになりましょう」

「……ええ」

 このまま地下へと走って行きたい気持ちを抑えて、彼女たちの言う通りに廊下を歩いた。

「姉様っ、診察はもう終わったの?」