囚われの令嬢と仮面の男

 お父様を密かに確認しながら、お母様に尋ねた。お父様は私を連れ出した経緯を、嘘を織り交ぜながら妹たちに話していた。

「マーサは。どうしたの?」

 エイブラムに聞いてマーサが暇を出されているのは知っていたが、主である私が帰ったのだから、明日にはまた彼女が戻ってくることを期待していた。

 途端にお母様の表情から笑みが消える。眉を下げて、気の毒そうに私を見ていた。

「彼女は屋敷を出て行ったわ。これはお父様のご判断なの、聞き入れてちょうだいね?」

 そう言って肩を撫でられた。

 マーサはもう二度と戻ってこない。誘拐に関与していると見抜かれたのだから、うすうすこうなることはわかっていた。

「……はい、お母様」

 けれど正直なところ、なんの挨拶もなく別れなければいけないのが嫌だった。マーサの処遇に納得できない私がいた。

「さぁ、お嬢様。お部屋へ」

 二人の侍女に腕を引かれ、退去を促される。

「あっ、でもまだ、彼が……っ」

 玄関口(エントランス)を気にする私を見て、お父様の厳しい目つきが侍女たちへ向いた。彼女たちの動作に焦りが生じる。

「さぁ、お嬢様。参りましょう」