「ブルーバーグ侯爵令嬢。テンネル侯爵家が次男スティールと申します。ぼくと踊っていただけませんか?」
テンネル侯爵家?
驚きに目を瞬かせていると彼からフッと微苦笑が漏れました。
「やっぱり、覚えてませんよね?」
図星を刺されて返答に困りました。会ったのは一回か二回くらい?
挨拶をした程度で顔を覚えるには機会も少なすぎました。
確か、隣国に留学されたと聞いていたのですが、一時的に帰国されたのかしら?
「すみません」
「いいんですよ。挨拶程度では覚える暇もなかったでしょうからね。踊っていただけますか?」
黒縁の眼鏡の奥から覗く穏やかな青い瞳。波打つ栗色の髪。人目を惹く容姿ではないけれど、人柄の良さを現わしているような柔和な面立ち。
エドガー様とは性質が正反対な印象を受けました。



