ガコン、と大袈裟な音を立ててエレベーターが一階へ到着した。

 キリヤの店舗が入るロビーも、小鳥遊さんの仕事場であるフロントもこの階にあるけれど、私はキリヤの事務所へ寄る為、地下一階まで向かう。
 
「お疲れさまです」

 低くて心地の良い声で私にそう告げると、小鳥遊さんはエレベーターを降りていった。
 

 まだ心臓がドキドキしている。久しぶりに小鳥遊さんと話ができた。しかも、エレベーターで二人きり。私にとっては、最高に特別なシチュエーション。気持ちが昂ぶっているのがわかる。
 私、不自然じゃなかったかな?
 
 小鳥遊航さん。私、三橋桃花の憧れの人。
 
 私は一年前、ここ桐谷生花のヘルメース・トーキョー店へ契約社員として入社した。
 二十五歳からの「再スタート」。

 十八の時、新卒として入った最初の会社は、中堅の保険会社だった。営業職として配属された私は、同期の中でも成績が振るわず、あっという間に落ちこぼれのレッテルを貼られてしまった。

 昔から、一つのことをできるようになるまでには人よりも多くの時間が必要だった。それがわかっていたから、精一杯努力した。でも、現実は甘くなかった。やがて先輩や上司からも見放され、私はろくに仕事も与えられず、会社で孤立するようになった。

 仲間だと思っていた同期たちは、遠巻きに見ているだけで誰も声をかけてくれなかった。
 


 私が根性無しだっただけかなのかもしれない。
 二十二歳の春、私は極度のストレスから駅で意識を失い、入院した。鬱病の一歩手前だと言われた。そしてそのまま、誰にも会うことなくひっそりと退職した。たった四年間の会社員人生だった。
 
 自分で思っていた以上に、私の心はぼろぼろになっていた。不甲斐ない自分に、毎日涙が止まらなかった。夜は特に最悪だった。真っ暗で、つめたくて。大嫌いだった。不必要にいろいろなことを考えてしまうから。独りぼっちの病室から、もう一生出られないんじゃないかとさえ思った。
 
 私はどこで間違ったのだろう? 
 あんなに頑張って就職活動をして、第一志望だった会社に入れたというのに。