「辞めようと思ったことがあるんですか?」

 ホテルマンのお手本みたいな小鳥遊さんが? 意外すぎる。
 
「ええ、あります。他人(ひと)と比べて、何で自分はこうなんだろう、っていつも思っていました。でも、そんな時片桐様が言ってくださったんですよ。『私たちはそのままの小鳥遊さんが好きですよ』って」
 
「わあ……。嬉しいですね、そんな言葉」
 
「はい。私も、すごく嬉しかったです。その時、お二人からストレリチアの思い出話をお聞きして。それからです、お部屋にストレリチアをご用意し始めたのは。頼まれたわけでもない、ただの自己満足なんですよ。でも……ご主人も亡くなられて。スタッフには面倒な手配だと言われて。今日のようにキリヤさんにまで迷惑をかけて……。私のやっていたことは、間違っていたのかもしれません」
 
 小鳥遊さんがそんなことを言うなんて。一体何があったんだろう? 誰かに何か言われたのかもしれない。

 見たことのない小鳥遊さんの顔を見て、胸がギュッとなる。
 
「間違ってなんかいません。絶対に」

 小鳥遊さんの目を見つめて、私は力強く言い放つ。

「——え?」

「小鳥遊さんは絶対に間違っていません。だって、片桐様、喜んでくださったんでしょう? それが全てじゃないですか」

「……」

「それに小鳥遊さん、知ってますか? ストレリチアの花言葉」

「いえ……」

 今にも空に羽ばたきそうな、鮮やかな極楽鳥。

「『輝かしい未来』」

 小鳥遊さんが、はっと顔を上げる。

「小鳥遊さんの未来も、そうでありますように」

 心から、そう願っているよ? 私。
 

「三橋さん、俺……」