——ヴーヴーヴー
 
 ショルダーバッグに入れていたスマホが震えた。
 
「あ……ごめんなさい」

「いいよ。出なよ」

 ディスプレイには伊藤店長の名前が表示されている。休みの日に連絡してくるなんて初めてだ。もしかして、何か急用?
 
「はい、三橋です」

「ああっ、良かった! ごめん桃花、お休みの日に」

 店長がこんなに慌てているなんて。やっぱり、何かあったんだ。

「いえ。何かあったんですか?」

「それがね、今日宿泊されるお客様の、お花の手配が漏れてたみたいなのよ。あいにく今店舗にも置いてなくて……。ストレリチアなんだけど」

「ストレリチア、ですか……」

 キリヤの店舗には常時十数種類の草花を置いているものの、ストレリチアのような特殊なものは取り寄せないと置かないことになっている。

「それでね、桐谷生花(うち)の本店に確認したらあるそうなのよ。ただ日曜日だから配達できるスタッフがいないらしくて……。こっちも、今日は婚礼が二件入っていてスタッフが動けないのよ。それで、桃花にお願いできないかと思って……」

 桐谷生花本店は、ヘルメース・トーキョーからは少し離れている。普通に行けば、電車とバスで最低一時間はかかる距離だ。でも水族館(ここ)からなら、それほど遠くはないはずだ。
 
「わかりました。私これから行ってきます」
 馬場君には申し訳ないけど、緊急事態だ。

「本当⁉︎ 助かるわ! ありがとう、桃花」

「大丈夫ですよ。わりと近くにいるのですぐに行けると思います。あ、何時までに必要ですか?」
 
 そう尋ねたけど、伊藤店長の声が返ってこない。

「伊藤店長?」