「最悪……」


 ザワザワと騒がしい教室。

 私は、周りに聞こえないような小声で無意識につぶやいてしまった。


「はぁ? 最悪ってなんのことだ?」


 わわわわっ、聞かれてしまった!

 隣に座るヤンンキー男子が私に話かけてきたよっ!

 どっ、どどど、どうしようっ!

 ここは、何とか話をそらすしかない!


「あの、その……」


 怖くて言葉がでてこない。

 もともと、対人スキルがレベル1の私。

 初対面のヤンキー男子と会話のキャッチボールなんて無理だよ。


「どうしたんだ、ジミーちゃん?」


 私に向かって、ジミーちゃんとか馴れ馴れしく言ってくるけど……


 浅野 花織(あさの かおり)が私の本名。

 どこにも、ジミーちゃん呼ばわりされる要素はない。

 なので、恐る恐るだけど聞いてみる。


「すいません、ジミーちゃんとは何のことでしょう……」


 顔をうつむかせ、視線を合わせないまま私は小声で聞いてみた。


「地味子だからジミーちゃんだろ?」


 黒縁メガネにボサボサの長い髪、顔の表情を隠すような前髪と猫背。

 高校生になっても、やっぱり外見は地味子のまま。


 入学早々、ヤンキー男子に不快なアダ名を付けられてしまった……