有馬さんはとても素直な性格で、裏表がなく親しみやすい良い上司だ。

しかし32歳独身の彼は、その素直さゆえに人に対する好意を隠し切れないという欠点があるようだった。

自意識過剰と言われようが間違いない。

彼の好意は真っすぐ私を向いていた。

身長は170ちょっとくらいでガタイも筋肉質で見た目は良いし、人としては嫌いではなく上司としても学ぶところが多い彼とは、こんなことで関係性を狂わせたくない。

それゆえに少しだけクールに接してみたりしているのだけれど、今のところ有馬さんには何の効果も見受けられないので、少し頭を悩ませているというわけだ。

マウスに手をかけ、ホイールをくるくると動かしながら小さく息をつくと、私の横の席から「くくっ」と堪えるような笑いが漏れた。

「笑い事じゃないからね」

チラリと横目で睨むように視線を送ると、「だってさ……」と笑いの主、坂木杏(さかきあん)は咳払いをした。

「有馬さん、めちゃくちゃアピールしてくるなと思って……。でも本人はあれで隠してるつもりなんだから笑えちゃうよね」

「隠すよりも封印してくれないかな」

「それは無理でしょ」

バッサリと切り捨てるように杏は鼻で笑った。

彼女は28歳で同学年だが、杏は中途採用で一昨年入ってきた若手ホープだ。

無駄がなく、何でもそつなくこなし、主に新婦様からの人気は絶大で、最近ではサポートではなく担当する顧客人数もどんどん増えてきている優秀な人材で私の良き理解者だ。