『竜の聖女の刻印』が現れたので、浮気性のあなたとはこれでお終いですね!

 
 それからのお話を少しだけ。

 ヴォルティス様を竜の塔に封じ込めていた、初代聖女の結界は私の古画文字魔法により打ち破られた。
 天井画と壁画に描かれていた魔法陣の意味は『永遠に孤独であれ』という、呪い。
 私は『永遠にあなたを愛す』という古画文字魔法でそれを破壊したのだ。
 こうして、ヴォルティス様は塔を離れ、どこへでも行けるようになった。
 けれどなにも問題はない。
 私が側にいれば、刻印が王都の紫水晶に魔力供給を行うのだもの。

 王家はヴォルティス様とも和解し、ヴォルティス様の自由な行動を許された。
 まあ、他国ではそもそも竜王をその場に止める結界など使っていないもの。
 私とヴォルティス様の(つがい)化は城で“結婚パーティー”として大々的に祝福されることとなった。
 これは、ヴォルティス様の人間の姿を王侯貴族に覚えてもらう意味もある。

 そして、ほぼほぼトラブルの発端となったニコラスを、私はそのパーティーでヴォルティス様と直接会わせることにした。

「これが邪竜か! ……人間の姿をしているが?」
「我が先代聖女ミネルバに助言を受け、人に化ける術を編み出した故の姿だ。これならば対話できよう」
「魔法か!」
「そうだ」

 意外にも会話が成立している……!

「レイシェアラ様ぁ、ご結婚おめでとうございます〜!」
「レイシェアラ様! ご結婚おめでとうございます!」
「ベティ様、ルイーナ! ありがとうございます!」

 色々手助けしてくれたお二人も、もちろんお妃様が招待してくださった。
 ベティ様の子爵家は、残念ながらベティ様のお母様の散財の結果維持が不可能となりお取り潰しが決まったけれど。
 それはニコラスから貴族の権限を徹底的に剥奪したい国王陛下とお妃様の意向も大きい。
 とはいえ——。

「ベティ様はこれからどうなさるのですか?」

 ルイーナが私が聞きたかったことを聞いてくれる。
 生まれが平民のベティ様は、貴族暮らしにとても憧れがあったはず。
 私やルイーナからも、ドレスや装飾品を多くせびって……いえ、払い下げを希望されていた。

「ニコラス様と冒険者生活ですよぉ。ニコラス様はとっても強いから、メキメキランクも上がってるんですよぉ」
「こう言ってはなんだけど、ベティ様はよくあのアホとやっていられますわね?」

 ルイーナも容赦と配慮がまったくなくなっているわね。
 私もそう思うけれども。

「うーん。ニコラス様は王太子に向いてないだけで、とっても繊細な人なんですよぉ」
「「せ、繊細?」」

 あのアホにもっとも程遠い表現では!?
 ベティ様にあのアホはどのように映っているの!?

「繊細なので、人の言葉を全部全部、細部まで聞き取って理解しちゃうんですよぉ。小さい頃からそうだったんだと思いますぅ。貴族の人たちの、言葉の裏側とかまでぜぇんぶ。それって結構、やばくないです? 多分悲しくてつらくて、耐えられなかったんだと思いますぅ。だから、ニコラス様、自分の幸せな解釈で理解するようになったんですよぉ」
「……全部、ですか?」
「はい、全部です」
「それは……」

 人に言われるすべて。
 その裏側にあるものまで。
 想像すると胃に入っているもの全部出てきそう。
 思わず口許を手で覆ってしまった。

「自分が壊れないようにするための、自己防衛だと思いますぅ。婚約者をいっぱいにしたのも、そういう理由だと思いますよぉ」
「……そう、でしたの」
「だから向いてないんですよぉ、王宮とか〜、あの人。きっと自由気ままなその日暮らしの冒険者の方が向いてますよぉ。冒険者は難しいこと考えませんからねぇ〜」

 にこにこ語るベティ様。
 私はニコラスの婚約者だったけれど、あの人がそんな繊細な感性の持ち主だったなんて考えたこともなかった。
 じっと彼女を見つめると、にっこりと微笑まれる。
 ああ、なるほど、そうか……。

「ベティ様はニコラス様を、愛しておられるのね」

 私には無理だった。
 話ができない。噛み合わない。理解できないし理解してもらえない。
 恐怖すら感じて、理解し合うことを拒絶した。
 でもベティ様にはニコラスが『繊細で孤独な人』に見えたのだろう。
 私がヴォルティス様を、美しく気高い孤独な方、と思ったのと同じように。

「そうですねぇ、初めてお会いした時から『なーんて繊細で不器用な人なんだろう』って思いましたねぇ」
「わたくしには理解できませんわ」
「ふふふ、私もよ、ルイーナ。でも、ベティ様にはそう見えなかったのでしょう。まさしくニコラス様の運命の乙女なのですわね、ベティ様は」
「えー♡ だったら嬉しいですぅー♡」

 ベティ様と共にいれば、ニコラスもきっと少しずつ癒されて、人の話が聞けるようになるかもしれない。
 あのアホには、国民よりもこのたった一人の運命の女性を守り抜く方がきっと性に合っている、というやつなのでしょう。

「ご結婚」
「おめでとうございます」
「「聖女様」」
「まあ! エセル様、ルセル様。この度は城の庭をお貸しくださりありがとうございます」

 話しかけてきたのはエセル様とルセル様。
 わざわざ同じ色、同じデザインの礼服を着なくても……。
 どっちがどっちか全然わからない。

「聖女様、ルセルが天井画を見せたと聞きました」
「あ、はい。大変参考にさせていただきました」

 今喋った方がルセル様のことを言ったから、右がエセル様なのね。
 天井画は本当に参考になりました。
 ある意味、ヴォルティス様を解放できたのはルセル様が天井画を見せてくださったからだもの。
 お礼を申し上げなければいけないわ。

「結局、あの天井画の魔法はどんな魔法だったのですか!」
「ですか!?」
「えっ」

 ご、ご先祖様が竜王を『永遠に孤独であれ』と呪っておりましたよ。
 ……なんて、絶対言えない。
 マジでこんな無邪気に瞳を輝かせる子どもに!

「えぇとぉ……」
「それからそれから」
「今回聖女様が竜王を解放した魔法は」
「どんな魔法なんですか!?」
「っえ!」
「今回の聖女様の偉業も」
「王族の寝所の天井に」
「絵画として残すべきだと」
「思うのです!」

 二人が交互に喋る。
 かなりとんでもないことを言い出された。
 な、なっ、な……なっ!
 わ、私の魔法も、王家の寝所に描く!?
 私かヴォルティス様へ……『永遠にあなたを愛す』と言ったあれを!?

「ほう、それはよい案だな」
「ヴォルティス様!」
「竜王様!」
「聖女様の魔法について」
「詳しく教えてください!」
「わー! わー! いけません! いけません!」

 聖女以前に淑女として、ありえない声を出して喚いてしまう。
 だって、そんな! そんなの!

「絶対に内緒ですーーーーーー!」

 私、レイシェアラ・シュレ。19歳。
 私は叫び、拳を掲げた。





 終