エリス国には古くから伝わる昔話がある。
 神秘なるエリス国の初代国王は神に愛され、故に魔法の力を授かった。神は特に寵愛する王族に神使を遣わせ、特別な祝福を授けると。


    ◇ ◇ ◇


 ここはダナース国の王宮の奥深く。
 シーンと静まりかえった広く豪勢な寝室のベッドの端に、ひとりの可憐な姫君が腰かけていた。

(エディロン様はまだかしら?)

 緊張に胸を高鳴らせていた姫君──今日式を挙げて王妃となった元エリス国の王女、シャルロットは天井を見上げる。
 目に入ったのは、ドレープの垂れ下がる豪奢な天蓋だ。

(今夜、ここで──)

 これから起こることを思い、頬が赤らむ。ただ、肝心の夫であるダナース国の国王──エディロンが現れない。
 一向に開く気配のない隣室との扉を見る。その扉は、先ほどと同じようにぴったりと閉ざされたままだ。

「ねえ、ルル。エディロン様が遅すぎる気がするわ」

 シャルロットは自身の使い魔である白猫のルルに話しかける。