境界線を越えたくて

 だけど、で言葉を詰まらせた俺の代わり、水沢さんがその言葉を引き継いだ。

「だけどやっと今、言えてよかった……」

 安堵したような彼女を胸元からそっと外すと、彼女は大粒の涙を流していた。それを指で(すく)えば彼女も俺に対して同じ所作。

「え」
「泣いてるよ、坂口くんも」
「うっそ……」
「うそじゃない」

 そう言って、くすりと笑う泣き顔の彼女。カッコつけも何もできず、俺もぐしゃぐしゃな顔で微笑んだ。

「好きだよ、水沢さん」
「私も好き」
「距離は遠くなっちゃったけど、時間作ってたくさん逢いに行く」
「うん。私も」

 互いの片頬に手をあてがったまま会話をすれば、水沢さんの温もりがもっと欲しくなる。そしてそれは目の前の彼女も(しか)りかもしれないと俺が三度(みたび)自惚れたのは、そのつぶらな瞳が閉じられたから。
 だから俺の唇は、引き寄せられた。