境界線を越えたくて

「み、水沢さん……」

 愛する人を目にした瞬間、泣きそうになった。四月になった今日なのに、彼女は未だに中学生の制服を身に纏っていた。

「ど、どうしてここに……」

 行き先も伝えなかった俺の居場所。それなのにどうして君は見つけてくれたの?

 ゆっくりゆっくり俺の元へと()を進める彼女。手の届きそうで届かないそんな場所で足を()めれば、世界も()まったような気がした。

「卒業なんて、できないよ……」

 絞り出された声だった。

「坂口くんに気持ちを伝えないまま、卒業なんかできないっ。どうして引っ越しするんだって教えてくれなかったの?どうしてありがとうもさようならも言わせてくれなかったの?ひどいよっ」

 ふるふると身を震わせて、必死に訴えかけてくる彼女。そんな彼女のさまを見れば、俺の信念が、いとも簡単に葬られていく。

 ふたりにとって一番良い関係は、恋仲ではない。

 そう思っていたのに。

「私は坂口くんが好きっ。ずっとずっと、大好きだったっ」

 気付けばジャンプするように、大股一歩を踏み出していた。