境界線を越えたくて

 四月に突入すれば、濃くなっていく新生活の「新」。高校の制服も届いたし、使わなくなった中学校の教科書も整理した。

 地元よりも先に咲いた桜は先に散り出す。葉桜から脱するピンク色が風花(かざばな)のようにちらちら舞い、哀切(あいせつ)を演出する。

 三年前の葉桜の時期、俺は彼女に恋をした。名も知らぬ子を愛おしいと思えた俺の初恋。

「逢いたいなあ……」

 けれどもう一生。

「逢えないなあ」

 木に向かってそう嘆息を吐いた時、俺は異次元へとワープした。

「坂口くん」

 そんなはずはないと思った。
 まさか、嘘だ、あり得ない。それだけが脳を支配して、夢でも見ているのかと疑った。

「坂口くん」

 けれどそれは間違いなく彼女の声で、俺はギギギとぎこちなく後ろを振り返る。