境界線を越えたくて

 校庭へと視線を逃していると、ふと聞こえてきた健二の声。

「あっれ、瑞樹ここにもいねえの?」

 邪魔されたくないと思うけれど、彼女との間には見えぬ境界線。それが彼女の手をとる邪魔をした。だけど。

「え」

 彼女はそれを越えてくれた。

「水沢さ──」

 ドサンとついた尻もち。突起した柱が俺等ふたりを隠してくれた。胸元のシャツにしがみつく彼女の香りが鼻へ緩やかに入ってきて、離したくないとそう思った。

「静かにっ。健二のやつまだそこにいるから」

 健二がいようがいまいが関係なかったけれど、俺はそれを言い訳に彼女の背中へ手をまわす。
 胸板がでこぼこと波打って、いい加減にしてくれよとげんなりする。

「いきなり押し倒してごめん。もう教室戻ろ?」

 上目で俺を見てくる彼女と絡む視線。
 目がよく合う水沢さんが好き。
 もうそんなことでは済まされない胸の高鳴りが、俺を支配していく。