俺のことなど嫌ってしまった彼女の心がまだ俺にあるのではないかと再び自惚れたのは、彼女がこんなことを言ってきたから。

「坂口くんの色々を、もっと知りたいです」

 瞬間ドクンと脈が打って、血が全身を駆け巡る。

 だけど俺はやっぱりいいカッコしいで狼狽(うろた)える自分を見せたくはないから、こめかみなんかをぽりぽり掻いて、ぐらぐら揺蕩(たゆた)う黒目は斜めに逃して。

「好物はカレーです、とか?」

 だなんて言ってその場を(しの)いだ。

「苦手なものはわさび」
「うんっ」
「好きな教科は数学で、古典は嫌い」
「うんっ」
「三人兄弟の末っ子」
「へえっ」
「あとはそうだなあ……」

 俺は君が好き。だから。

「水沢さんのことも教えてよ」

 そう言ってみると、彼女の頭から湯気が出た。

「わ、わたしのことなんか興味ないでしょっ」

 そんな勘違いはして欲しくないと思ったから食い気味に「すっげえある」と伝えれば、両手で赤い顔を覆う彼女。
 思い上がった、期待した。
 ひょっとすると、両思いなんじゃないかって。