「どうしてこんな風の強い日に、ベランダなんかにいるの?」

 縄でも巻いてこのバクバク騒ぐ心臓を押さえつけたいと思ったけれど、俺はマジシャンではないから胸元に手を添えるだけ。
 俺等の間には何の隔てもない。だけど壁と同化した柱が突起しているそこで一組と二組のテリトリーが分かれているから、俺はそれ以上は近付けない。

「さ、桜を見てたっ」
「桜?」
「さ、桜の木っ」

 あそこ、と校庭の隅を指で示されて、小首を傾げる。

「蕾?」

 何の面白味もない茶色のそれがその途端にどうしてだか、大事なものに見えた。

「明日もここにいる?」

 そう聞いてしまったのは、明日も会いたくなったから。

「明日の昼休みも、水沢さんはベランダにいるの?」

 明日もここで会おうよ。
 そう素直に言えぬ自分は、本当チキンだと思う。

「い、いるよっ」

 だけど彼女がそう教えてくれたから、俺の顔からは笑みが(こぼ)れたんだ。