「水沢乙葉って、絶対に瑞樹のこと好きだよなー。ぜっんぜん瑞樹とタイプちげえのに」

 健二が俺の胸を肘で小突き揶揄(からか)い出したのを皮切りに、周りの皆も便乗し、次から次へとこんなことを言ってきた。

「俺もそう思ってた!なんかよくこっち見てくるし、ぜってえ瑞樹狙いだよ」
「え、でもまじで不釣り合いじゃね?どうせだったら早苗の方がいいよ。あいつも瑞樹のこと好きっぽいし」
「あー、確かに。顔も性格も、断然早苗の方がお似合いだな!」

 自分の心を置いてけぼりに進められる会話に虫唾がわいたあの感情を、今でも鮮明に覚えている。

 それから数日後、俺は早苗に告白をされた。

「もう知ってるかもしれないけど、私、瑞樹のことが好きなの」

 何と言えば傷付けずに断われるだろうか、そう小さく気迷ったことを見破った早苗は慌てて続けた。

「あ、返事は急いでないのっ。なるべくならいい答えが聞きたいしゆっくり考えて欲しいから、今はいらないっ」
「あ、ちょっ」
「またねっ」

 手を振り走り去った早苗を追いかけなかったその日から、俺はどん底へ堕ちていく。