それはそれで頷ける部分はあった。私が坂口くんに告白をして万が一付き合うことができたとしても、卒業という抗えない節目がふたりを容易に遠ざけると知っている。
 卒業をすれば、もうこんな風にベランダで話すこともない、廊下ですれ違うこともない。毎日逢えない、目に入れられない。

 近くて遠い、そんなんじゃなくて。遠い、になるんだ。

「坂口くんは、彼女の気持ちを思いやれる優しい人なんだね」

 相手を思っての発言だと思った私は手すりを背に置き、トンッと真下の地面を蹴った。

「好きな子が大事だから、可哀想なことはしたくないんだよね」

 トンッとまたひとつ(こす)るように蹴ると、彼は言った。

「違うよ。本当は俺のため」

 え?と彼を見やる。いつの間にか彼も校庭に背を向けていて、ポケットに両手を突っ込んでいた。

「俺が寂しくて潰れる、そんなの。逢えないのに恋人同士でいるなんて相手を大切にするなんて、そんな器用なことできない」

 強い口調だった。経験者だと思わせるような、それかこれから、今すぐにでもそんな経験をするかのような口調。

「だからさ、水沢さん」

 手すりから背を剥がした彼が、姿勢を正して真っ直ぐ私の視線を捉えてきた。貫くようなその眼差しに体は静止。金縛りのように動かない。

「水沢さんも卒業しなよ」

 卒業。一体何を。そう聞く()も与えられず、彼は続けた。

「俺もちゃんと卒業するから。水沢さんも卒業して」