「あ」

 淡いムードを発見すると共に、上擦った一文字が抜けていく。

「なに?」

 口を大きく開けた私の視線は、坂口くんも(すみ)やかに追っていた。

 桜の木の下。私たちと同じ学年の男女がふたり、何やら真剣な面持ちで向かい合う。彼は身を乗り出した。

「うっわ。石田(いしだ)のやつまじで告白するんだ」

 淡いムードのその正体。それは愛の告白。怪訝な表情の彼は「うわー」と頭を抱えると、「やめとけって()めたのに」とも言っていた。

 そんな彼の隣、私は暫しふたりの動向を見守った。

「あ、見てっ。オーケーもらったんじゃない!?」

 応援も何もしていなかった彼等の恋だが、手を繋ぎカップルが誕生した瞬間を見れば嬉しくなった。
 手すりに腕を預けたままパチパチと手を叩く私の側、長い溜め息を吐き出すのは坂口くん。そんな彼に聞く。

「どうして()めたの?」
「だってもうすぐ卒業じゃん、離れちゃうじゃん」
「それはそうだけど……」

 もうすぐ卒業だから。だからこそ告げたい気持ちが私にはわかる。

「卒業しても繋がりたいから告白したんじゃない?」

 だからそう言った。けれど彼の考え方は違った。

「石田は県外の私立に合格したんだよ。往復三時間はかかるって言ってた。土曜日も授業があるから忙しくなるみたいだし、その上高い学費を補うためにバイトもするんだってさ。恋人と会える時間なんてほとんど取れなくなるってわかってるのに付き合ったりしたら、相手が可哀想じゃん」