その日は、悠のことで頭がいっぱいだった。
夜ご飯を食べている時、『あんたどうしたの?』ってお母さんに聞かれてしまうくらい。

『死に場所を探さない?』

あの言葉の意味が、気になって仕方ない。
悠は、死にたいのだろうか?私と同じ?

それに、あの時悠は、『死ににきたの?奇遇だね。』とも言った。
つまり、悠も死ににきたってこと?あんなに明るそうな、悠が?

私の中で疑問がぐるぐるぐるぐる回っていく。気がおかしくなりそうだ。

「ねぇってば!お姉ちゃん!」

不意に、私を呼ぶ声が聞こえた。

「お姉ちゃん!話聞いてる?」


「え?!」


気がつくと、綾が怒ったような顔でこちらを見ていた。
悠のことで頭がいっぱいで、綾が私を呼んでいることに気がつかなかった。
何か重要な話だろうか?

「えっと…何?」

「だから、今日雪降ったね!」

「え?う、うん…」

なんだそんなことか、と言いたくなるのを抑える。
雪が降り始めた頃、私が外階段から飛び降りようとしていたことは、口が裂けてもいえない。

「あ、そうだ。お姉ちゃん、これあげるよ。」

そう言って綾が、キーホルダーを渡してきた。
うさぎのぬいぐるみが付いている、とても可愛らしいものだ。

「ありがとう…でも、なんで?」


「友達の誕生日プレゼントを買うついでに買ったの!私と色違い!ほら!」

私と同じ、うさぎのキーホルダーを綾が取り出して見せてくれた。
なるほど、首に巻いてあるリボンの色が違う。

「ありがとう。」

お礼をすると、綾がとても嬉しそうに笑った。
あの時、飛び降りずに生きていて良かった。そう、ほんの少しだけ思った。