ターゲットの奈木くんは一年校舎だ。

その裏に構える木のひとつに登ったあたしは、足で枝に逆さまでぶら下がりながら、双眼鏡を覗いた。

彼のクラスは今、調べでは数学の授業のはずだ……

あ、いたいた。

情報通り、三組の窓側、一番後ろの席にいる。

あくびもしないで、きちんとノートを取ってる姿は凛々しい。

なるほど、しっかり者なわけか。

あたしはスパイ。だからだれにも見つかったらいけない。

これ大前提ね。

だから、授業が終わったらこっそり教室に侵入して、彼の机にラブレターを忍ばせよう。

大丈夫、次の時間、彼は理科だもん。

移動教室で、だれもクラスには残らない。

腕時計を見ながら、一時間目があとどれくらいで終わるか、チェックする。

――と、そのあたしの前に、なにかがツーと下りてきた。

……蜘蛛だ。

はは、たしかにあたし、女の子だけどね、スパイが蜘蛛なんかでビビったりは……

「ん? は?」

ちょっと待った、この蜘蛛、なんか変……

なんでお腹のとこに、デジタルタイマーが動いてるの?

『侵入者、排除シマス』

「はっ?」

そんな声が、なぜか蜘蛛から聞こえた。