「そんな顔するなら、振らなきゃいいじゃないですか」
「⋯うん、ごめん」
「⋯っもう自由登校で、先輩と会える機会もほとんどなくなっちゃうじゃないですかっ」
「⋯」
「そんな中で卒業式までの残り一か月でどうやって先輩を落とせっていうんですかっ?」
トン、と押した胸板は思ったよりもしっかりしていて、そんな事でさえも好きだと思ってしまう私にはもう、タイムリミットが迫っていた。
溢れんばかりの先輩への好きを貯めていたカップを心の奥底に仕舞わなくてはいけないタイムリミットが。
「津久井先輩、好きです」
「ごめん」
「好きですっ⋯」
「⋯悪いけど、お前はただの後輩で、柚葉の気持ちには答えられない」
何度も交わしたこの会話が一段と焦燥感を煽るのは、大好きな津久井先輩があと一ヶ月後には卒業してしまうから。
一ヶ月後にはもうこの学校に通うことはなくなって、顔を合わせることだってなくなって、県外の大学に行ってしまうから。
「残り一ヶ月、望みはありますか?」
「⋯柚葉、」
「なくても、私は先輩が好きですけど」
「⋯、」
「だけど、もう、さすがに私だってわかってますから」
半ば独り言の様に呟く私を先輩はただ黙って見つめている。
私だってわかってる。わかってるんだよ、ちゃんと。
もうおしまいにしなくちゃいけないって。
そのタイムリミットが、先輩の「卒業」だって、わかっているんだよ。
だけどさ、二年間恋焦がれた相手をすぐに諦めきれるわけないじゃん。
望みが薄くても、賭けてみたっていいじゃん。
最後なんだから。
悪あがきしたって、いいでしょ?先輩。
「最後のチャンスをくれますか」
震える声で呟いた私の考えていることなんて津久井先輩にはお見通しだろう。
だって、私が先輩と過ごそうと思って隣にいた時間は、当然、先輩と共有されているんだから。
ベラベラと自分のプロフィールやらを話した事もあったし、先輩の前では出来るだけ素直でいよう、そのままの私でいようって決めていたんだから。
思ったことは声に出して伝えようって、心がけていたんだから。
私の隣には先輩がいて、先輩の隣には私がいたんだから。



