「ね、あの人だよ」
「生徒会長じゃん!」
「ほんとに付き合ってんのかな」
「え、聞いてみなよ」

 コソコソと、そんな声が聞こえてくる。本当なのか、勝手にそう思い込んでいるのかはもうわからない。

 油断したら泣いてしまいそうだった。泣かないように歯を食いしばったまま、トイレに駆け込む。荒れる息を整えて、壁にもたれかかってSNSを開いた。

 トレンドに、『王子遥灯』の名前を見つけた。

『王子遥灯彼女いたのまじ?』
『最悪じゃん、単独あるのに』
『オタクかわいそう』
『王子遥灯くん彼女いたとかショックすぎる』
『【ご報告】担降りします――』

 あろうことか、矛先はすべて王子くんに向いてる。

『館町担ですがさすがに自覚ないと思います』
『末っ子で甘やかされてるからって調子乗んな』

 ちがう。……ちがう!

 王子くんはすごく努力家だ。友達と遊ぶこともせず、ひたすらに夢を追っている。

 ――わたしのせいだ。

 あのとき、ペアなんかにならなかったらよかった。
 あのとき、わたしがドラマを見ずに早起きして普通に学校行ってたら。王子くんとぶつからなかった、ペアワークの相手にもならなかった、仲良くならなかった。

 こんなことになるなら、わたしたちは、出逢わなければよかった――。