次の日の昼休み、私は王子に言われた通り屋上にやってきた。


「あ、店員さん」


 私よりも先に王子が屋上に来ていた。…全身で風を受ける姿もカッコいい。


「こ、こんにちは」


「ところで店員さん、学年と名前は?」


「えーっと、1年1組の立花チハルです…」


「へぇー…1年なんだ」


 …あれ?なんか王子の雰囲気が変わったような…?


「てかさ、なんで俺が甘いもの好きじゃないってわかったの」


 それは…、


「私、転校してきたばかりであまり先輩のこと知らないんですが、初めて見た時に、なんか仮面を被ってるような気がしたんです」


「仮面?」


「…はい。先輩が無理して笑ってるように見えたんです」


 私は昔から観察力には自信がある。友達が体調悪い時とか、なんか悩み事がある時とかはすぐにわかった。


「…そっか、俺もまだまだだな」


「あの、先輩はなんで自分を演じてるんですか?」


「…そっちのがいろいろと都合がいいからだよ。…本当の俺はあんなに優しくない。でも優しい方が人が寄ってくるし、笑顔の方が印象がいい」


 確かに。ずっと笑顔の人とずっと真顔の人がいたら、絶対ずっと笑顔の人の方がいいよね。


「でさ、立花。俺、お前と1つ取り引きしたいんだけど」


 これが王子の素なのか、いつもよりも低い声で、少し荒い口調で私に言う。


「なんですか?」