苦くて、甘い

「立花さん、迎えに来たよ」


「あ、はい!」


 放課後になり、道宮先輩がちーちゃんを迎えにきた。


 …やっぱり先輩と帰るよね。ちーちゃんが幸せになるのは嬉しいけど、なんか私のちーちゃんを奪られたような気がして、なんか嫌だ。


 その時、


「あ、七瀬ちゃん!」


 道宮先輩の後ろから上山先輩が顔を出す。


「…なんですか」


「アサヒたち、一緒に帰るんだってー。…俺たちも帰らない?」


「結構です」


 上山先輩と帰るなんて、疲れる。それなら1人で帰る方がましだ。


「そんなこと言わずに〜。…ほら、行こう?」


「だから、嫌ですって…!」


 上山先輩は私の左手を握って、教室の外に連れ出した。


「もう…なんなんですかっ…!」


「いやー、なんか七瀬ちゃんめっちゃ寂しそうな顔してたからさぁ…。俺が元気にしないとって思ったんだよね」


 え、もしかして気づいてっ…?


「そんなことっ…!」


 と、反射的に否定したが、顔を上げた時に見えた先輩の表情が、とても暖かくて。


「…なんでわかったんですか」


 と、自分の気持ちを認めざるを得なかった。


「やっぱりね。…七瀬ちゃんさ、立花ちゃん以外に友達いないでしょ?」
 

「…喧嘩売ってるんですか?」


 そうですよ。私、友達いないんです。


 …でも、ちーちゃんが私と仲良くなってくれて嬉しかった。ずーっと一緒にいてくれる、そう思ってた。


「…ちーちゃん、私から離れていくんですかね。私より、道宮先輩を優先させるんですかね」


 私の心の黒い部分が、どんどん流れ出してくる。


「わかってるんです。友達よりも彼氏を優先させることぐらい。…でも、私にはちーちゃんしかいない。寂しくて…」


 もう、溢れて止まらない。

「…大丈夫だよ。もし立花ちゃんが七瀬ちゃんから離れても、俺がずっとそばにいる。…七瀬ちゃんの彼氏として」


「…っは?かれ、し…?」


「俺、七瀬ちゃんが好きだよ。七瀬ちゃんが悲しい時、寂しい時、俺がずっとそばにいたい。…七瀬ちゃんが嫌になるほど」


 なんで、私の1番欲しい言葉を言ってくれるんだろう。


「…私、性格キツイんで、先輩に嫌なこと言うかもしれません」


「大丈夫だよ。…俺はそんなことで七瀬ちゃんから離れたりしないから」


 先輩の優しさが胸にしみる。そして私は悲しさと嬉しさの涙を流した。


 上山先輩は、黙って私を抱きしめてくれた。