「ただいまー」


 1人寂しくいつもの道を歩いて帰ると、どれだけ先輩との帰り道が楽しかったかをひしひしと感じた。


「あ、チハルやっと帰ってきた」


「立花先輩、おかえりなさい!」


「は、え、漆間くん!?」


 エプロン姿のお母さんの後ろから出てきたのは、同じくエプロン姿の漆間くんだった。


「今日からここで働いてくれる漆間リツくんよ!チハル、いろいろ教えてあげてね?」


 え、まさか、


「よろしくお願いしますって、このことだったの?」


「はい!立花先輩に仕事教えてもらおうと思って、一足先に挨拶させていただきました!」


 あ、そういうことだったんだ。


「…わかった、よろしくね」


 まだ頭が少しついて行っていない感じがするけど、まぁいいか。


「あ、そうだ、立花先輩!あの、名前で呼んでもいいですか?」


「え、なんで?」


「だってここじゃみんな立花さんじゃないですか」


 確かに。


「うん、いいよ」


「やった!ありがとうございます!…じゃあ俺のことも名前でお願いします!」


「わかった。…えと、リツくんね」


「はい!」


 私が名前で呼ぶと、漆間…いや、リツくんはとても嬉しそうな顔をした。


 …なんか、これから楽しくなるな。まだ先輩のことが気がかりではあるけど。


 私の心にかかった不安の雲は、いつになったら晴れるんだろう。