「…は、ぼ…みち…ひと…く…す…」


 …ん…?みちみや先輩…?


 1階のお店から話し声が聞こえて目が覚めた。


「あ…あな…ち…かれ…の?」


 お母さんの声だ。お母さんと道宮先輩が話してる。


 チラリと時計を見ると、夜の8時30分ぐらいだった。喫茶店はもう閉めてる時間。


 …じゃあ、先輩何しに来たんだろう。


 その時、1階から階段を登って上がってくる足音が聞こえた。


 誰か来る!


 私はとっさに布団に潜り、寝たふりをした。


 ドアノブが回される音がして、ドアが開いた。


「…立花?…寝てるのか」
 

 …この声は、先輩…?


 先輩だとわかっても、寝たふりとはバレたくなくて、そのまま続ける。


「今日お前がいなかったから、俺激甘のコーヒーを飲んだんだからな。…お前がいないと俺が困るんだよ」


 そっか、私以外の人は言われた通りに淹れるよね。


「…て、そうじゃなくて。俺はお前がいないと寂しいんだよ。…だから早く治せ」


 と言って、私の頭を優しく撫でた。


 とても優しい撫で方で、ずっと撫でてほしいと思った。


 そして私の部屋から出て行った。


 先輩が、寂しい…?


 その言葉が意外すぎて、私は先輩が消えたドアを見つめたまま動けなかった。