「俺の彼女になって」


 …へ?か、かのじょ?かかっ、彼女ってあの彼女のこと…?


 私が1人あたふたしていると、王子が続けてこう言った。


「…なんだっけ、…あぁ、あのミルク王子?の時はいろいろ都合いいんだけど、女が寄ってくるのが玉にキズでな。…お前には俺の彼女のフリをして欲しい」


 あぁ、ニセカノってことか。いやいや、なんで私なの。


「なんで私なんですか」


「この学校の女子で、俺の素を知っているのがお前しかいないからだよ」


 私だけ…?


 お前しかいない、という言葉が、なぜかとても特別に聞こえた。


 正直、偽物でも王子の彼女になれるのは嬉しい。でも、そうなった時の他の女子からの妬みとかが怖いのが本音。…惜しいけど、断ろう。


「…すいません、私にはできないです」


「へぇ、断るんだ。…知らないよ?明日から学校に来れなくなっても」


 …え?どうゆうこと?


「俺がお前のことについて悪い噂流したりとかしたら…。転入してきたばっかりのお前は学校に来れなくなるな」


「…え、で、でも誰もそんな根も葉もない噂信じるわけが…」


「転入生のお前と、人気者の俺。…みんなはどっちの言うことを信じるかな?」


 …それは完全に先輩だ。やばい、このままじゃ私の新しい学校生活が先輩に壊される。


「…わかりました、やります」


「…よし」


 仕方がない、私の生活とお母さんお父さんのためだ。


 唇を噛み締める私に近づく先輩。そして私の耳に口を寄せて、


「…じゃあ、よろしくね?…チハルちゃん」


 …なんてミルク王子の仮面を被ってささやくから、私の顔は一瞬で真っ赤になってしまった。


 私が好きになってしまったのは、裏表の激しいビターミルク王子さまでした。