土曜日。私は大倉くんの家に向かっていた。


「あ、青峰さんだ」


「井下くん。偶然だね」


　曲がり角でばったり井下くんと会った。


「ここから大倉の家まではあと少しだね。青峰さん、一緒に行こうか」


「そうだね」


　行こう、と言ったけど、井下くんとあんまり話したことがないから、なんか緊張する。


　あと、無言が気まずい。その沈黙を破ったのは、井下くんだった。


「…僕ね、青峰さんに話しかけられた時、少し怖かったんだ」


　…え？


「でも、怖い人じゃないってわかったから。…ごめんね？急に」


「いや、大丈夫。…というか、逆に嬉しいよ。…私話したこともないのに勝手に噂立てられて怖がられることばっかだったから」


　この身長とポーカーフェイス。まぁ、身長はどうにもならないんだけどね。


「…だから、ありがとう」


　井下くんみたいな人は、ほとんどいなかった。


　思わず笑みが溢れる。


「…っ！？」


　井下くんが目を見開く。


「…なんだ。…可愛いじゃん」


「え？井下くん、なんか言った？」


「…いや！なんでもないよ。…あ、着いたよ」


　あ、本当だ。いつの間に。