背中越しの王子様

 その瞬間、私の中から何かが湧き上がった。


 私は先輩をダッシュで追いかけて、小学生の頃とは違う、その大きな背中に抱きついた。


「なにそれ。自分の言いたいことだけ言って、逃げるつもりですか?」


「…っ!?マ、マシロ…?」


「ウソついたことは怒ってます。でも先輩は…、先輩は私の心からいなくならなかった…」


 先輩の心臓か、私の心臓の音かが聞こえる。


「昔がどうであれ、あの時助けてくれたのが嬉しかった。それは本当」


 私が少し腕を緩めると、先輩はこちらを向いた。


「私は、先輩が好きです」


 もしかしたら、昔も好きだったのかもしれない。


「…本当…?」


 私はゆっくりと、でも確実にうなずく。


 すると先輩が私に顔を近づけてきて、


 そのままおでこにキスをした。


「…っ!?ちょ、先輩!?」


「俺も好きだよ、マシロ。お前の笑顔も、声も、全部。…イジワルしたくなるほど」


 私がその言葉に顔を赤らめたのは、言うまでもない。


 誰もいなくなった夜の公園で、2人の鼓動だけが聞こえていた。