背中越しの王子様

「…マシロ、ごめん」


 先輩は私と合わせていた視線を下に向けた。


 先輩はいつの間にか、私のことを昔と同じようにマシロと呼んでいた。


「マシロと久しぶりに会った日、俺はマシロって気づかずに助けたんだ」


 先輩が少しずつ話し始める。


「そしてマシロからお礼を言われた時、初めてマシロだってわかった。…わからないはずがなかった」


 そして先輩は、目線をゆっくりと上げる。


「…だって、マシロは、俺の初恋の人だから」


 先輩の突然の告白に、目を丸くする。


「あの時俺は、タクヤだよって打ち明けようとも思った。…でもマシロが俺って気づいてないのがわかって、気づいてないならそれでいっかって思ったんだ」


 先輩が目を伏せる。


「俺はあの時の俺が嫌いだったから。好きな子に向かって、イジワルでしか気を引けない子供だったから」


 そしてまた私を見つめる目は、どこか寂しそうで悲しそうだった。


「でも、だからといってマシロを傷つけていい理由にはならない。…マシロ、ごめん」


 先輩はそう言って、私に背中を向けて歩き出した。