如月くんに連れて来られたのは、人気のない場所だった。


「あのさ…」

 
「…えっと、そ、そうだよね!如月くん、海外行っちゃうもんね。しょ、しょうがないよ」


 如月くんから別れの言葉を聞きたくなくて、如月くんの言葉に私の言葉をかぶせた。


「つむぎ…?」


「わ、私は大丈夫だから…!」


 そう言いながら、私の目からは涙がこぼれ落ちた。


「違うよ、つむぎ」


 違う…?違うって、なにが?


 如月くんは私にゆっくりと近づいて来て、


「つむぎ、目閉じて」


 と言った。私は言われた通りに目を閉じた。


「…目、開けて」


 目を開けると、なにもなかったはずの私の左手の薬指に、銀色の指輪がはまっていた。


「こ、これって…!」


「うん、指輪だよ。…でも、つむぎ俺と別れたいの…?」


「いやいやいや、そんなわけないよ!」


 あれは私が傷つきたくなくて…。


 すると如月くんは指輪をつけている私の左手をとった。


「…俺、大学は海外行くし、今みたいに簡単には会えないかもしれない。つむぎを不安な気持ちにさせてしまうかもしれない」


 如月くんが私の手をぎゅっと握る。


「でも、俺はずっとつむぎのことが好きだ。…大学卒業したら、俺と結婚してください」


 如月くんのその言葉に、また涙が溢れてくる。


 でも、今度の涙は嬉しい涙だ。


「…私もずっと、い、伊織くんのことが好きです…。こんな私でよければ、よろしくお願いします…!」


「…っ、つむぎ…!」


 ふふっ、名前呼んじゃった。


 そして私たちは、笑い合ってどちらからともなくキスをした。


 なにも伝えられずに終わってしまうと思っていたこの初恋。


 それは桜咲くこの日に、永遠の愛の約束に変わったんだ。