「え、なんで泣いてるの?」


 如月くんにそう言われるまで、私は自分が泣いてることに気が付かなかった。


 私、如月くんの前で泣いてばっかだな…。


「…ねぇ、なんで泣いてるの」


 如月くんが私との距離を詰める。私は如月くんとの距離をとる。


「なんでも、ないです…!」


 その言葉とは裏腹に、どんどん目から溢れ出す涙。


 完全に目の蛇口が壊れてしまった。


 拭っても拭っても、全然止まらない。


「なんで逃げるの。…そんなに俺がいや?」


 そう言う間も一歩一歩私に近づいてくるので、


「逃げてません…!」


 と、後退りしながら言った。


「いやいや、逃げてるじゃん」


 ゆっくりゆっくり下がっていくと、遂に壁に背中が当たり、追い込まれてしまった。


「…俺、なんかした?」


 ち、近い…!


「…近い、です」


 私はあなたが好きで、あなたが早乙女さんからチョコをもらったのが嫌で泣いてました。


 なんて、絶対に言えない。


「…ねぇ、つむぎ」


 なんでこんな時に名前を呼ぶの。


 あの時は嬉しくて嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうだった。


 でも、私のことを名前で呼んだって、如月くんにとって私はただのクラスメイトだと思うと、とても胸が痛い。