バレンタイン当日。莉子ちゃんは登校すると、すぐに私の席に来た。


 如月くんは、まだ学校に来ていない。


「つむぎ、チョコちゃんと持ってきた?」


 少し心配になって、カバンの中を見る。


 するとそこにはちゃんとチョコが入っていた。


「うん、持って来た…!」


「…つむぎ、頑張ってね!」


「うん!」


 恥ずかしい。でも、頑張って今日中に渡さなきゃ。


 そう決意を固めていると、教室の後ろのドアの方が騒がしくなった。


 気になって顔を向けると、そこにはたくさんの人が。


「如月く〜ん、チョコもらってよ〜」


「伊織!チョコあげる!」


 と言う声が聞こえて、その騒ぎは如月くんが作り出していることがわかった。


 …うん、だよね。如月くん、人気だもんね。


 私以外が如月くんに渡すだろうってことは、しっかりわかっていたつもりだった。


 でも、こんなにとは。


 少し落ち込んでいると、如月くんの声が聞こえた。


「ごめん!俺、今年は好きな人からしかもらわないって決めたんだ!…だからごめん!」


 え…?如月くん、好きな人、いるの?


 しかも好きな人からしかもらわない、って。


「えー、伊織好きな人からもらえるの?」


「うーん、それはわかんないけど…。でも好きな人からしかもらわない」


 私、あげられないじゃん。