「ささっ、食べて食べて!」


「い、いただきます…!」


 如月くんに促されて、目の前のショートケーキをひとくち。


「美味しいっ…!」


 ショートケーキを口の中に入れると、なめらかなクリームの甘さとふわふわのスポンジが、口いっぱいに広がった。


 こんなに美味しいショートケーキ、食べたことない!


「ふふっ、喜んでもらえてよかった」


 私を見て笑う如月くん。


 はっ…もしかして私、今だらしない顔とかしてたんじゃ…!


 そう思うと、一気に顔が赤に染まった。


 やばい、恥ずかしいっ!


 私は恥ずかしさを紛らわすため、またショートケーキを頬張った。


「七瀬さん、そんなに急いで食べなくってもショートケーキは逃げないよ?」


 と、如月くんが茶化すように言う。


 ショートケーキを食べ終わり、如月くんの方に顔を向ける。


「美味しかった?…って、七瀬さんクリーム付いてるよ」


 と、如月くんは私の左頬に右手を伸ばし、私の頬に付いたクリームを、指で拭った。


 そしてそのクリームを、ぺろっと舐めた。


「…ん、甘っ」


 その一連の動作が、私にはやけにゆっくりに見えた。


 如月くん以外、何も見えない。


 ただ、音のない世界の中で、私の心臓の音だけが鳴り響いていた。


「きっ、如月くんっ…!」


 私はガタッと席を立ち、少し身を乗り出した。


「ん?なに?」


「あ、あのっ!」


 私、あなたのことが好きなんです!


 そう言いかけて口をつぐんだ。


 危ない危ない。なに調子に乗ってるの?つむぎ。


 たまたま隣になって、たまたま勉強教えて、たまたまここに一緒に来ただけじゃん。


 それでもう告白するの?まだ自分のこと知ってもらえてないのに?


 …そう考えてしまうと、まだこの言葉は言えそうになかった。