…その時。


「…せさんっ!ちょっと待って!」


 急に後ろから右腕を引っ張られて、私は思わず立ち止まった。


 腕を引かれた方向を見ると、そこには肩で息をする如月くんがいた。


「えっ、き、如月くん…?」


 なんで、ここに。早乙女さんとデートのはずじゃ…。


「はぁっ…七瀬さん、なんでどっか行っちゃうの…って、なんで泣いてるの?」


 あっ、やばい!私泣いてたんだった…!


 私は恥ずかしさのあまり、如月くんから顔を背けた。


「…な、なんでもない、です…!」


「なんでもないわけないじゃん。…俺、なんかした?それとも早乙女?」


 如月くんが反対側に回って顔を覗き込んでくるので、私はまた顔を背ける。


 それを何回も繰り返すと、痺れを切らした如月くんが、


「ねぇ、教えてよ。…つむぎ」


「えっ、今…!」


 急に名前で呼ぶので、私は反射的に顔を如月くんの方に向けてしまった。


「ほら、やっぱり泣いてるんじゃん。…どうしたの?」


 そんなふうに優しく言うから。私の口は勝手に話し始めた。


「…早乙女さんが、如月くんとデートだって言うから…」


「えっ?」


 口に出してから気づいたけど、これって結構好きってことバレるんじゃ…?


 …でも、もういいや。


「…早乙女さんと如月くんがデートするって言うから、悲しかったの」


 一度リミッターが外れると、次から次に本音が口から流れ出す。


 あーあ、こんなこと言っても如月くんが困るだけなのに。


 すると如月くんは、


「…そうだったんだ。ごめん!悲しませて」


「いや、謝らなくていいよ…!」


「早乙女があんなこと勝手に言ったから…」


 え?勝手に…?


「じゃあ2人とも付き合ってないの…?」


「うん。付き合ってないよ」


「ほんと…?」


「うん、ほんと」


 その言葉を聞いた瞬間、私はほっと胸を撫で下ろした。


 なんだ、全部私のはやとちりだったんだ…。