「ひとりよがりだなんて、それは間違いです。私だって、年齢のことを気にしていないと言えば嘘になります。啓之さんに釣り合ってるかなって、いつも自信がないです。でも、啓之さんにふさわしい人間になりたいってずっと思っていて、啓之さんのそばにいるのは私であってほしいと思っています。これからずっと、死が私たちを分かつ日がきても、私は啓之さんのことだけを思い続けますよ」

彼はふっと笑って私の頬に右手を添えた。

「私には手に余るくらいだ」

 唇に軽く触れるキスをした。

「一生、大事にします」

 覚悟の瞳。

私はこの人に私のすべてを委ねようと思った。

 彼はすくっと立ち上がり、私に手を差し伸べた。

「一緒に歩こう」

 彼は柔らかな微笑みを私にくれた。

私は彼の差し出された手に自分の手を重ねた。

温かくて、頼もしい、大きな手。

この手に導かれるのはきっと幸福な未来。

 春と呼ぶにはまだ少し早い寒空の下、ゆっくり、ゆっくり、砂に足を取られながらふたりで歩く。

春先の心地よい風が私たちの間を吹き抜けていった。