どうにもこうにも~恋人編~

 センターコンソールに置いた飲み物に手を伸ばし一口含んだ。道中で寄ったコーヒーショップのカフェモカだ。あれ?ブラックコーヒー?

「石原さん」

 小声で西島さんが私を呼んだ。

「それ、私のですよ」といたずらっぽく笑って彼は言った。

「!!すいませんっ」

「いえ、気にしませんから」

 彼は私からそれを取って一口飲んだ。

か、間接キスですよ、西島さん!

私が飲んだ直後に口をつけるなんて、なんだかエロティック…。間接キスとか気にするあたり、私はまだまだ子どもということなのか…。

 季節は秋ということもあり、私たちは都市部から車で1時間半ほど離れたところにある紅葉の名所を訪れた。そこには全国名水百選にも選ばれているというS川の上流にある大きな滝も見られる。

このあたりは鯉料理が名物らしく、参道沿いには鯉料理店が軒を連ねていた。紅葉シーズンで休日ということもあり、家族連れやカップルが多い。

少し早いが私たちは鯉料理のお店で昼食をとることにした。鯉料理屋さんがたくさんある中でも一番歴史があり有名なお店で旅館も営んでいるらしい。外装も格式ばった感じではなくこじんまりした田舎の旅館風情で、玄関をくぐるとアットホームな雰囲気を感じた。私たちが通されたお座敷は簡素だが清潔感があり落ち着いている。