九州旅行の土産話をしながら、これまたおいしい料理をご馳走になった。特に鯛のポワレと国産牛のサーロイングリルは絶品だった。あっという間にデザートのカタラーナアイスブリュレまで行きついてしまった。初めて食べるブリュレがあまりにおいしくてもったいないのでちみちみ食べていたら彼に笑われてしまった。

「ごちそうさまでした。すっごくおいしかったです」

「お口に合ったようでよかったです。じゃあ、行きましょうか」

 この前このホテルに来たときは食事だけのはずだったのに、私が「帰りたくない」と言って彼を引き留め、結局ホテルに泊まったのだ。


しかし今回は違う。


あらかじめ用意してもらった部屋があり、私たちはそこに泊まることになっている。あのときのような隔たりは、私たちの間に今はもうない。

エレベーターに乗り、上の階へ上がるにしたがって高揚感が否応なしに高まっていく。

彼はカードキーで部屋のドアを開けるとすぐに目に飛び込んできたのは、大きな窓ガラス越しに望む美しい夜景だった。

「すごーい!」

 高層ビルの明かりと幹線道路を走る車のライトがきらきらと眩く光っている。この前も同じような景色を見たはずなのに、目に映る景色の印象がまるで違うのは、部屋がずっと広く窓が大きいからというだけではないだろう。

「ここ、ビューバスなんですよ」

「ビューバス?」

「来てごらん」

 私は彼に手を引かれてバスルームに連れていかれた。そこにはジェットバスがあり、備え付けられた窓からは夜景が望めるようになっていた。

「えーすごいすごい!めっちゃきれい!」

 子どもみたいに陳腐な感想しか出ないくらいには興奮していた。こんなロマンチックな夜を過ごすには私はまだ幼いかもしれない。