どうにもこうにも~恋人編~

「車、持ってたんですね」

「うちの会社には駐車場がないので、普段は電車通勤なんですけどね。使う機会は少ないですけど、休日で時間があれば車で遠出することもありますよ。じゃあ、行きますか」

 ふたりきりの静かな車内には小さな音量でカーラジオからはビートルズが流れていた。黒で統一された内装で、革のシートが高級感を漂わせている。車内は物が少なく掃除が行き届いているようだ。

「あんまり車の中を見られると恥ずかしいな」

「あ、ごめんなさい。不躾にじろじろと」

「いや、人を乗せることがあまりないから、ちょっと緊張します」

「こんないい車を持っていながらもったいないですね」

「でもこれからはふたりであちこち行けたらいいですね」

 西島さんと車で観光名所巡ったり、海とか、温泉旅行とか行ったりしたら、すごく楽しいに違いない。

 運転席と助手席の独特の距離感に終始ドキドキしっぱなしだ。お父さんの運転でどこかに行くのとはわけが違う。隣で運転する西島さんの姿を横目でチラチラ盗み見てはときめいてしまう。

 そして彼はものすごい優良ドライバーなのだと思う。無理な追い越しはしないし、黄色信号では必ず停まるし、なかなか本線に合流できない車がいたら道を譲る。

「わっ」

 隣の車線を走っていた車が急な車線変更で前に割り込んできたので、車が急に減速して前につんのめった。

「おっと、失礼しました」

 そんな言葉をかけるところまで素敵すぎる。運転は性格が出るというが、たしかにその通りなのかもしれない。運転テクまで紳士的だ。