この前来たときはあまりじっくり見ていなかったが、ここのホテルにはレストランがいくつか入っていて、和洋折衷全部そろっている。当たり前だがどこもおしゃれで高そうだ。この前はフレンチだったが、今日は違うレストランに行くらしい。

入ったレストランの看板には「和ビストロ」と書かれていた。創作和食のお店らしい。静かなラウンジミュージックと間接照明がシックでモダンな雰囲気を演出している。まずは白ワインで乾杯をした。

「卒業おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「新しい門出を祝して、乾杯」

「乾杯」

 まろやかでフルーティーな舌触りの白ワインで飲みやすい。一瞬で酔ってしまいそうになるのは、きっとこの非現実的なムードのせいだろう。

「あまり飲みすぎないでくださいね。夜は長いですから」

 そう言ってもう一口ワインを煽る彼を見ながら、その言葉の言外の意味を想像して顔が熱くなるのを感じた。

「顔が赤いですね。もう酔ったんですか?」

「いやまさか。これは、違います」

 頬に手を当てるとやはり熱い。 

「卒業旅行は楽しかったですか?」

 彼は、早速出されたカナッペをひょいとつまんで口に入れた。

「はい。おいしいものたくさん食べて、温泉巡りしました」

「それは最高ですね。九州は食べ物と温泉に尽きますね」