その日の夜は家族と卒業祝いで焼肉を食べに行き、翌日からゼミ仲間と3泊4日の卒業旅行で九州に行った。啓之さんに会ったのは卒業旅行から帰ってきた翌日だった。

夕方、ホテルで食事をしようということで、駅に彼が車で迎えに来ることになっている。食事のあとはそのホテルに泊まる予定だ。「おめかししてきてね」と言われていたので、メイクと服には気合を入れた。濃いめのメイクにミント色のマキシスカートと黒いジャケットを羽織って出かけた。

約束の5分前、彼の車が到着した。車のドアを開けると、ホワイトムスクの匂いがふわりと香る。

「ただいま帰りました!これ、九州土産です!」

 私はお菓子の入った袋を彼に差し出した。

「お帰り。わざわざお土産ありがとう。あとでいただくね。じゃあ行こうか」

 彼は黒のチノパンを履き、黒のタートルネックセーターにネイビーのテーラードジャケットを着ていた。いつもの格好と言えばそうなのだが、いつもに増してかっこよく見える。

夕方の帰宅ラッシュで車通りは多い。私は卒業して春休みに入ったが、世間はみんな仕事にあくせくしているのだ。車を走らせて十数分後、私たちはとある高級ホテルに着き、地下駐車場に車を停めた。

「ここ、覚えてますか?」

「忘れるわけないじゃないですか」

 ここは、いつか彼に内定祝いをしてもらった場所だ。そして彼との関係が始まった場所。

「今夜は、あのときとは違いますよ。あらかじめ部屋も予約していますから」

 彼はにっと笑った。