私たちは会場を出てラウンジのソファに向かい合って座った。

「三宅先輩は、県外に出るんですよね。もう住むところ決めたんですか?」

「ああ。ケイちゃんはこっちで就職だろ?実家暮らしいいなー」

「そんなことないですよ。社会人になってしばらくしたら、ひとり暮らし始めようかなあって考えてます」

「そうなの?まあ、親のこと気にしながら彼氏と付き合うのも気ぃ遣うよなあ」

「まあ、それはありますね」

「なあ、最後に写真撮ろうぜ」

「いいですよ」

 彼は私の隣に来て身を屈め、ポケットから取り出したスマホをインカメにして構えた。カシャッとシャッター音。2回目のシャッター音で、彼が私の頬に軽くキスをした。

「ええええ!?」

「最後の悪あがきな。あとで送るわ」

「い、1枚目だけでいいです!!!!」

「こんな写真なんかで西島さんが動揺するわけないだろ」

「そういう問題じゃないですよ!」

「俺、ケイちゃんが1年生の頃からずっと好きだったんだぞ」

「え?そんな前から?」

「やっぱ気づかないよなあ。もっと早く気持ち伝えてれば、違っていたかもな」

 彼は自嘲気味にふっと笑った。

「俺のこと振ったんだから、西島さんとちゃんと幸せになれよ!」

「言われなくてもなりますよ!」

「こいつ、太々しいな」

 いつかみたいに、私の頭をゲンコツでぐりぐりとやった。

「痛いですってば!」

「じゃあな」

 彼は私の頭にポンっと手を置いて去って行った。

別れ際に見た彼の顔は清々しく笑っていた。