なんとか無事に卒論を提出し、晴れて卒業式を迎えた。みんながそうしているように、私も袴を着て卒業式に出席した。朝早く起きて美容室で着付けとヘアメイクを施してもらった。袴を着るだけで身が引き締まる思いだ。

人生の節目で特別な日であることに心が高揚した。卒業式は市の文化会館で執り行われ、大ホールはたくさんの卒業生で埋まっていた。卒業生だけでも大学にはこれほどの人がいるのかと思うほどだ。

厳粛な雰囲気の中、代表の卒業生に学位記が授与され、学長式辞、卒業生・修了生答辞と続く。中学校や高校の卒業式とは違ってあまりに人が多いので、自分が当事者であることを忘れそうになる。

卒業式のあとは、バスでホテルに移動して大学主催の謝恩会に参加した。豪華な食事を楽しみながら、お世話になった先生たちに挨拶したり、苦楽をともにした友人たちと歓談したりして過ごした。

「ケイちゃん」

 テーブルでローストビーフを食べていると、後ろから声を掛けられて振り向いた。声の主は三宅先輩だった。学部と大学院の合同の卒業式なので彼がいるのは当たり前なのだが、今日彼と話すのは初めてだった。

「三宅先輩、卒業おめでとうございます!」

「ケイちゃんも、おめでとう」

 いつもバイト先で見ているシンプルなTシャツを着た彼とは違って、パリッとした黒のスーツ姿で髪をオールバックにしていた。

「三宅先輩、決まってますね!」

「そう?ケイちゃんも、袴似合ってんじゃん」

 バイトのとき以外に話すのは滅多にないので変な感じだ。

「なあ、ちょっと外で話さないか」