「大将まで大袈裟ですよ。しばらくは橋本くんと志穂ちゃんが頑張ってくれますよ」
橋本くんと志穂ちゃんは後輩バイト仲間だ。ちなみに、いつか三宅先輩がふたりはデキていると睨んでいた通り、いつの間にかちゃっかり付き合い始めていた。
客足が落ち着いてきた頃、いつも一人で来る常連客が来店してきた。
「いらっしゃいませー!って、啓之さん」
「さっきぶりですね」
「来たんですね」
「今日が最後のバイトだと言っていたじゃないですか。このバイト姿も見納めですね」
彼はいつものカウンター席に座り、私は彼におしぼりを渡した。
「えっと、ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、熱燗とたこわさびと、それから鰹のたたきで」
「かしこまりました!」
夕方まで一緒に過ごしていた恋人がバイト先に来ているなんてとても変な感じだ。
しかもそのとき彼としていたことがことだけになんだか背徳感。ついつい彼の情熱的な愛撫を思い出してしまい、場違いだと分かっていてもドキドキして仕事に集中できない。
今カウンターの端でちみちみやっている彼と、夕方の激しく艶っぽい彼が同一人物とは思えないくらい、あまりに違いすぎてくらくらしてくるようだ。熱燗を煽る彼と目が合ってドキッとした。
「もう一本いただけますか?」
彼は空になったとっくりを振って私に示す。
「はい、ただいま!」
結局彼は小1時間ほど滞在してお酒と大将の作るつまみを楽しんでいた。彼が席を立ったのを確認すると、速攻でレジに向かった。
「お会計しますね」
「あなたにお会計してもらうのも最後ですね。寂しくなります」
「会おうと思えばいつでも会えるじゃないですか」
「ここはあなたと出会った場所ですから、思い入れがあるんですよ。ここであなたと会えなくなるのはとても寂しい。でもまあ、あなたがバイトをやめてもまたここには来るかもしれません。大将のつまみは絶品ですから」
「それは、ありがとうございます」
「最後のバイトお疲れ様。じゃあ、また」
「はい。ありがとうございました!」
私は暖簾をくぐる彼の後ろ姿を見送った。軽く手を挙げて挨拶をする後ろ姿がかっこいいな、と思った。また会えると分かっているのに、突然私の胸に寂寥感が訪れ、客としての彼とのささやかな思い出が脳裏を巡った。
橋本くんと志穂ちゃんは後輩バイト仲間だ。ちなみに、いつか三宅先輩がふたりはデキていると睨んでいた通り、いつの間にかちゃっかり付き合い始めていた。
客足が落ち着いてきた頃、いつも一人で来る常連客が来店してきた。
「いらっしゃいませー!って、啓之さん」
「さっきぶりですね」
「来たんですね」
「今日が最後のバイトだと言っていたじゃないですか。このバイト姿も見納めですね」
彼はいつものカウンター席に座り、私は彼におしぼりを渡した。
「えっと、ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、熱燗とたこわさびと、それから鰹のたたきで」
「かしこまりました!」
夕方まで一緒に過ごしていた恋人がバイト先に来ているなんてとても変な感じだ。
しかもそのとき彼としていたことがことだけになんだか背徳感。ついつい彼の情熱的な愛撫を思い出してしまい、場違いだと分かっていてもドキドキして仕事に集中できない。
今カウンターの端でちみちみやっている彼と、夕方の激しく艶っぽい彼が同一人物とは思えないくらい、あまりに違いすぎてくらくらしてくるようだ。熱燗を煽る彼と目が合ってドキッとした。
「もう一本いただけますか?」
彼は空になったとっくりを振って私に示す。
「はい、ただいま!」
結局彼は小1時間ほど滞在してお酒と大将の作るつまみを楽しんでいた。彼が席を立ったのを確認すると、速攻でレジに向かった。
「お会計しますね」
「あなたにお会計してもらうのも最後ですね。寂しくなります」
「会おうと思えばいつでも会えるじゃないですか」
「ここはあなたと出会った場所ですから、思い入れがあるんですよ。ここであなたと会えなくなるのはとても寂しい。でもまあ、あなたがバイトをやめてもまたここには来るかもしれません。大将のつまみは絶品ですから」
「それは、ありがとうございます」
「最後のバイトお疲れ様。じゃあ、また」
「はい。ありがとうございました!」
私は暖簾をくぐる彼の後ろ姿を見送った。軽く手を挙げて挨拶をする後ろ姿がかっこいいな、と思った。また会えると分かっているのに、突然私の胸に寂寥感が訪れ、客としての彼とのささやかな思い出が脳裏を巡った。


