薄暗くなった寝室のベッドの上で、私は彼の腕に抱かれていた。疲れてうとうととまどろんでいると、彼が不意に言葉を発した。

「そろそろバイトの時間じゃないのかい?」

「そうです…。バイト前にこんなことするなんてすごい背徳感です…」

「自分が誘ってきたくせによく言うねぇ。こんな姿、大将には見せられないね」

「やめてくださいぃ。そう言えば今日バイト最後なんですよね」

「そうなんだ」

「行きたくないな…」

「君を楽しみに待っている常連客もいるだろうに」

「うう…。行ってきます」

 私は嫌々ベッドから這い出て、軽くシャワーを浴びてからバイトに向かった。


 今日が最後のバイトだからと言っていつもと特段変わりはない。いつものように大将から料理を受け取りお客さんに提供し、皿を片付けテーブルを拭いてレジをして、厨房とお客さんの間を忙しく動き回っている。しかし今日が最後のバイト日だと知っている常連さんたちからはちょくちょく声を掛けられる。

「ケイちゃんがいなくなるのは寂しくなるなあ」

「俺、ケイちゃんが大学1年生のときから知ってるよ。もう卒業なんて早いなあ」

「ケイちゃんがいなくなったら店回らなくなっちゃうんじゃないの?なあ大将!」

「ああ困るよ。三宅くんとよく働いてくれたもんなあ。ケイちゃんも三宅くんも卒業するからさぁ、また新しいバイト入れなきゃなんねえ」