父は相変わらず仏頂面だが、実は大の甘党なので喜んでいるはずだ。カステラを食べるという作業があるので、会話がなくても気まずさが多少は和らぐ。

「君は、普段から酒を飲むのか」

「嗜む程度には」

「そうか」

「お父さん、今度一緒にお酒飲みましょうって言ってるのよ」

 母は身を乗り出し、手を口の横に当ててこそっと西島さんに言った。

「黙っとけ」

「我々親にとって慧は大事なかわいい娘だ。君に任せていいんだろうな」

「はい。うんと大事にします」

 父は私たちのことを認めたということだろうか。私と西島さんは顔を見合わせてふっと笑った。

「お父さん、最後まで無愛想でごめんなさいね。あの人頑固なのよ」

「いえ、お話ができてよかったです。また来ます」

 玄関にて西島さんを見送りするときも父は出てこなかった。

「是非また来てくださいね。そのときはおいしいお酒を用意しますから」

「ええ。楽しみにしています」

「じゃあ、私、西島さんを見送って来るね」

「では、失礼します」

 手を振る母をあとにし、私と西島さんは家を出た。

「君はご両親から本当に愛されてるんだね」

「そう思いますか?」

「ええ。とても大事に育てられたことが分かります。特にお父さんは君がかわいくてしょうがないようだ」

「過保護なんですよ。私だってもう大人なのに」

「君は素直すぎて危なっかしいところがあるからなあ」