「そんな言葉が信じられるか。うちの娘をたぶらかそうっていうんじゃないのか?」

「お父さん、そんな言い方失礼よ」

 父の言葉に、西島さんが居住まいを正した。

「私は、慧さんと最後まで添い遂げたいと思っています。私の言葉に嘘偽りはありません」

 短い言葉だったが、その言葉には揺るがぬ力強さと誠実さが表れていた。横目で彼を見ると、真剣な眼差しは逸らすことなく父に注がれていた。彼の真剣さに父もたじろいでいるように見えた。それは母も同様のようだ。

「やだもう、こっちが照れちゃうわ。いただいたお菓子、みんなでいただきましょ」

 母が慌ただしく紙袋のお菓子の包みを開けた。

「あら、おいしそうなカステラ。切り分けましょうかね」

 母はそれを持ってキッチンへと消えていった。

「お茶、どうぞ」

 父は気まずそうにそう言ってお茶をすする。私と西島さんもお茶に口をつけた。ややぬるくなってきているお茶はやたらに渋く感じた。

 母は切り分けたカステラをお盆に載せて戻ってきた。数切ずつ人数分の小皿に載っている。

「お父さん、こう見えても甘いもの好きなのよ。さ、いただきましょ」

 一切れ口に運ぶと、ふわりと歯触りが柔らかくとろけるようなしっとり感があり、カステラの芳醇な甘さが口いっぱいに広がった。こんな気まずい雰囲気でもおいしいものはおいしい。

「おいしいカステラですね」

「そうでしょう。老舗の銘菓ですよ」