「そのイヤリングは…」

 花を模したあのゴールドのイヤリングだ。両耳につけているということは、彼がイヤリングを返したということだろう。ということは、ふたりはまた会社かどこかで会ったのだ。

「ああ、やっぱり見つけたのね。私が彼の上着のポケットに入れたの」

「なんでそんなことしたんですか?」

「嫉妬、かしら。私以外の人と一緒になったと知って、嫉妬してしまったの。迷惑かけちゃったわね」

「浮気かと思いましたけど、誤解は解けました。だからと言って、西島さんと篠原さんの間にはもう何もないとは思い切れません」


 彼女はふっと悲し気に笑って「もう何もないわよ」と言った。

 私は気になっていたことを彼女に聞いた。

「あの、不躾な質問だとは重々承知なんですが、なんで西島さんと別れたんですか?」

「本当に若いっていいわね」

「すみません」

「他に男ができたからよ。その男の子どもを身籠って、私から別れを切り出したの。彼は私との結婚を考えていたようだけど、私がそれをふいにしてしまったのよ。その後、私は退社して彼との連絡は絶ったけど、元同僚の話では彼はげっそり痩せてったって聞いたわ」

「篠原さんと別れて以来、西島さんは恋愛から距離を置いていたと言っていました」

「私のせいね。ひどい別れ方をしたと今でも思ってるわ。彼の優しさは平凡だと思って、刺激を求めてしまったのね。本当は、彼の優しさに甘えて、ただ彼の気を引きたかっただけだったのだと、あとで気づいたけどね。自分から離れていったくせに、今更何を言ってるのって思うでしょう?」

 彼女は自分を蔑むように薄く笑った。